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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2979号 判決 1976年8月20日

主文

本件控訴を棄却する。

被控訴人は控訴人に対し、五〇〇万円及びこれに対する昭和四九年七月二八日から完済まで、年五分の金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

原判決主文第二項は失効した。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人は控訴人に対し五〇〇万円及びこれに対する昭和四九年七月二八日から完済まで年五分の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、当審において、控訴代理人が、仮に被控訴人が、昭和四九年七月一六日控訴人に対し、同月二八日までに本件手形を返還しない場合には、本件手形金五〇〇万円を支払う旨約した事実が認められないとしても、被控訴人は本件手形の振出人片山進一が、手形振出により市川義郎から五〇〇万円を借用する際、右振出人の依頼を受け、保証の趣旨で右手形に裏書したのであるから、被控訴人は右市川に対し民法上の保証債務を負担していたところ、控訴人は右市川に五〇〇万円を支払い、同人から手形上の権利の外、右民法上の保証債権を譲り受けたのであるから、被控訴人は控訴人に対し右保証債務金五〇〇万円を支払う義務があると陳述し、被控訴代理人が右主張事実を否認すると陳述した。

(立証省略)

理由

一、当裁判所も控訴人の主位的請求は理由がないものと判断するものであり、その理由は原判決理由一、と同一であるからその説示を引用する(但し、右理由中「原告本人尋問の結果」とあるを「原審及び当審における控訴人本人尋問の結果」、「被告代表者本人尋問の結果」とあるを「原審及び当審における被控訴人代表者尋問の結果」と読みかえるものとする)。

二、そこで当審における予備的請求につき判断する。片山進一が本件手形を振出したこと及び被控訴人が右手形の第一裏書人欄に署名捺印したことは、当事者間に争いがない。当審証人市川義郎の証言及び原審ならびに当審における被控訴人代表者尋問の結果によると、片山進一は昭和四八年ころから、市川義郎に依頼し、同人から〓々融資を受けていたところ、同四九年二月中旬さらに五〇〇万円の融資を申出たこと、右市川は今までと違い融資する金額が大きいため、右片山に対し誰か確実な保証人の裏書をもらつて来るよう伝えたこと、そこで右片山はそのころ被控訴人代表者奥村守衛に対し右の趣旨を話して、本件手形に対する被控訴人の裏書を依頼したこと、右奥村はこれを承諾し、本件手形の第一裏書人欄に署名捺印したこと、右市川は右片山から本件手形を受領すると引換に、右片山に対し五〇〇万円を貸渡したこと、右奥村は本件手形に被控訴人の裏書がある以上被控訴人に手形金支払いの責任があるものと考え、同年三月八日ころ右市川から本件手形を預り、右片山の父親のもとに赴き、本件手形の支払を請求したこと、さらに同年六月末ころ、控訴人から右手形を預り、再び右片山の父親のところや、大阪にいる右片山の妻のところに赴き、本件手形金の支払を請求したこと、以上の事実が認められる。

右事実によると、被控訴人の裏書は、右片山の右市川に対する右金銭債務を保証する趣旨でなされたいわゆる隠れたる保証であることが認められる。ところで他人の債務を保証する趣旨で約束手形の裏書をした裏書人は、手形上の債務の外、民法上の保証債務をも負担するかどうかは、具体的場合の当事者の意思解釈によつて定まるが、右の者は反対の意思の認められない限り、原則として民法上の保証債務をも負担するものと解するところ、本件においては別段反対の意思が認められないから、被控訴人は右市川に対し民法上の保証債務をも負担するものと認める。従つて被控訴人は右片山の金銭債務につき、右市川に対して五〇〇万円の保証債務を負担することになる。

三、原審証人市川義郎の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は昭和四九年二月中旬、本件手形の第二裏書人欄に署名捺印し、右手形を所持していた右市川の依頼を受け、右手形を割引き、市川から振出日及び受取人白地のまま本件手形の裏書を受けたことが認められる。ところで約束手形の第一裏書人が、振出人の金銭債務につき、第二裏書人に対し民法上の保証債務を負担する場合、第二裏書人からさらに裏書によつて手形上の権利を取得した者は、手形上の権利の外、民法上の保証債権をも取得し、その取得につき対抗要件を具備することなく、右保証債務の履行を請求することができるから、控訴人は被控訴人に対して、右五〇〇万円の保証債務の履行を請求できることはいうをまたない。

そして本件手形の満期が昭和四九年三月二五日であることは、当事者間に争いがないので、被控訴人の右保証債務の弁済期もまた、昭和四九年三月二五日と認められる。

そうすると、被控訴人は控訴人に対し、右保証債務金五〇〇万円及びこれに対する弁済期の後である同年七月二八日から完済まで、年五分の金員を支払う義務がある。

四、よつて本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、当審における新請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用し、なお当審で新請求が認容されたことにより、予備的請求を認容した原判決主文第二項は当然失効するから、主文のとおり判決する。

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